2008年05月14日(水)
リレーコラム7人目は山田 泉さん。長年、保健室の先生をしてきました。
自らのがん体験を子どもたちに語る「いのちの授業」の模様はNHKの「ETVワイド ともに生きる」や「にっぽんの現場」などの番組でもお伝えし、大きな反響がありました。
人間の命には限りがある。そんなことはあたりまえ。でも、その時間が、思っているより短いかもしれないと告げられたら・・・。山田さんは教え子や家族といっしょに、その答えをさがしています。
退職後訪れた中学校での「いのちの授業」で語る山田さん
はじめまして! 大分の山ちゃんこと山田 泉です。
28年間勤めた中学校の保健室の仕事を、昨年退職し、よし、これから自由に羽ばたくぞ?っと思っていたところに、乳がんが再発転移し、奈落の底へ落ちた私。現在は、毎週抗がん剤を投与しながら通院し、時々講演や授業をしながら、今を生きています。
乳がんに出会って9年目になりますが、2年前の再発といい、昨年の転移といい、告知を受けるたびに、死がどんどん近づいてくる恐怖にどれだけ泣いたことか。
でも、泣きながらも、やっぱり人間は今まで通りに生きるしかないわけで、好きな文章を書き、・・・そうそう、2冊目の本が出版されました。退職してからこの1年間、全国のいくつかの小学校や中学校、高校や大学で行ってきた「いのちの授業」と子どもたちの記録です。『いのちの恩返し』というタイトルです。よかったら読んでください。
今年3月には、痛みが強くなり、ホスピスに入り緩和ケア(注1)を受けましたが、ホスピスでもなぜか私は書き続けていました。また、大分のホスピスから福岡の会場まで行き、講演もしちゃいました。自分でも、よくやるよなあ?と笑ってしまいます。
「いのちの授業」で訪れた鹿児島の小学校の子どもたちと授業後の記念撮影。
でも、ふりかえってみたらあれもこれも、ぜんぶまわりの人の支えがあったから。
ホスピスに入院していた頃は、歩くのもしんどいほど痛みがつらかったのですが、医師がすぐにモルヒネを処方してくださり、「安心して使っていいんだよ」と、何度も説明してくださいました。すると痛みがスーッと取れ、普通の暮らしができるようになりました。
講演なんて絶対無理!とお断りするつもりだったのですが、「大丈夫。行ってらっしゃい!」と見送ってくださった医師や看護士、ソーシャルワーカー(注2)の丁寧なケアのお陰で、講演は無事終了。大成功でした!
でも、ほっとして喜んでいるとがんは、またしのびよってきます。腫瘍マーカー(注3)は、どんどん上がり、検査のたびに、ため息。絶望しながら生きるって、大変です。
夫の真ちゃんです。九重の夢の大橋にて。
そんな暮らしをそばで見守ってくれるのが最愛の真ちゃん。リンパ浮腫(注4)で、パンパンに腫れた私の右腕を毎晩マッサージしながら、「がんばっていこうえなあ」(豊後弁で「がんばっていこうな」の意)と声をかけてくれます。真ちゃん、いつもありがとう。
明日も今日のように生きられますように!と祈る日々です。
プロフィール
山田 泉さん
大分県豊後高田市生まれ。
1979年から養護教諭の仕事に就き、県内の7校の小・中学校に勤めた。2000年2月、乳がんを発症し休職。 乳房の温存手術後、放射線治療、ホルモン療法を受けた。
2002年4月に復職し、自らの体験をもとに「いのちの授業」に取り組んでいたが、再発。再び手術を受け、休職。一度は復職したが、体力の限界を感じ、2007年3月退職。
その後も、体調に配慮しつつ、各地で活動。2008年10月に行われたリレー・フォー・ライフ大分ではチームで完歩。会場でも「いのちの授業」を行ったが、2008年11月21日入院先の病院で逝去。享年49。
著書
『「いのちの授業」をもう一度』(高文研)
『いのちの恩返し』(高文研)
『ひとりぼっちじゃないよ』ーはじめての乳がんを生きるための知識とこころー(共著・木星舎)
(注1)ホスピス・緩和ケア
病気の治癒を目指した治療ではなく、心身のつらい状態を緩和するためのさまざまなケアをさす。治癒的な治療法がなくなったときの、いわゆる終末期(ターミナル)ケアとは必ずしもイコールではない。
(注2)ソーシャルワーカー
医療ソーシャルワーカー
患者等が、地域や家庭において自立した生活を送ることができるよう、社会福祉の立場から、患者や家族の抱える心理的・社会的な問題の解決・調整を援助し、社会復帰の促進を図る専門職をさす。
(注3)腫瘍(しゅよう)マーカー
がんなど腫瘍が発生したときに、血液中に増える特異物質の総称。腫瘍マーカーの検査によって、身体のどの部分に発生したがんか、どんな性質のがん細胞か、再発がないかなどを調べる。
(注4)リンパ浮腫
リンパ液は体の末端から中心部に向かい、老廃物などを運ぶ働きをしています。その関所のようなところにリンパ節があります。乳がんなどの手術の際、がんといっしょにまわりのリンパ節も取り除くことがあります。そうすると、リンパ液の流れる大きな道がなくなり、腕がむくむ、いわゆるリンパ浮腫が起きてしまいます。