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2023年08月12日

がん友のエッセー

「がんと心の治癒力」より(2023年7月24日)

黒丸先生と私の出会いはいつ頃だったろう。私ががんになってからだから、おそらく十五年くらい前かと思う。広島市で行われた「生きがい療法二十周年記念大会」で講演された。その後出演された方と実行委員での食事会で黒丸先生と近い席に座らせていただいた。その席で色々話を聞かせていただき、意気投合してからのお付き合いのように記憶している。

さて、このたび「がんステージⅣ克服」という本を出された杉浦貴之さんたち実行委員会が主催「とにかく元気が出る講演会イン 奈良」で黒丸先生が「がんと心の治癒力」という講演をされた。私は参加したかったが、開催日七月十五日(土)には所用があったので、録画配信で観ることとなった。そこで、観ていて関心が高まった部分について記してみたい。

私はもともと心療内科医です。なぜ心療内科を選んだか。理由ですが、

〇心の状態が悪いと体の状態も悪くなりやすい。心の状態がよくなったら体の状態もよくなる。そういった心と身体のつながり

〇テーマは自然治癒力(自分で自分を治す力)をいかに活性化するか

〇がんの自然治癒力、こうしたことに関心を持ち、研究しているのは心療内科。だから選んだ。

がんが自然に良くなった人は多種多様。ある人がドイツに留学した時調べたが、がんが自然に良くなった人は十人に一人。こういう人を十二人集めたところ、六人は免疫力を高めたという。三人は宗教「神様がよくしてくれた」。三人は生活習慣を変えた。食生活をガラッと変えたという。

結局何によってよくなったかわからない。自然治癒力は身体が持っている治癒力。心の状態が影響・関係する。

私は薬があまり好きではない。人は自然治癒力を持っているからそれを利用したい。じゃあどうするか。コミュニケーションを大切にする。心の状態でよくなると思う。

「心の持ち方が大切」というと、明るく、積極的に、前向きにと思いがちになることが多い。だけど、がんの人に「明るく、前向きに」と言って変わるか。変われる人もいるが、ほとんどの人は変われない。かえって相手を落ち込ませ、傷つける。医者としてかかわる場合、そんなことは一切言わない。「ホッ」とするような状況をつくれたらよい。

「脳内革命」という本がバカ売れの時期があった。その本によって「前向きに、明るく、がんばる人は免疫力が高まる」と言われてもできない患者がいる。そんな病院から患者が来た。話を聞くと「明るく前向きになれない。皆でカラオケをと言われても一人で過ごす方が楽」そこで私は言った。「明るくならなくていい。無理してまで前向きにならなくていい。貴女の場合はあなたの自然体でいい。そうしないとストレスでしんどくなるよ」

彼女はポロポロと涙を落した。「そんな風に言われたのは初めて。ホッとして、落ち着く」と言い、自然に楽になった。「明るく、前向きに」というのは表向きの言葉であり、教科書的な対応。患者さんによって接し方は違う。
今私は緩和ケア医だが、好きではなかった。人が亡くなる直前にお付き合いというのは苦手。だけど三千人のうち、二十人くらいは普通では考えられない人が出る。心の治癒力により、がんが大きくならなかった人がいる。がん患者にも心の治癒力は影響する。

七十代の肝臓がんの患者。「あと三年の余命」と言われていたが、「三年たったので」と言って私のところに来た。一応体の検査をする。血液検査とCTをする。腫瘍マーカーは下がり、肝臓がんは大きくならず、手術できる状態。

「あなたは良くなるかもしれない」と伝える。喜ぶかと思ったが、「それは困った」といい、考え込む。「私は三年の命と言われたので、三年間、世界を旅行し、楽しんできた。そのあとは死ぬだけと思っていたのに、よくなっては困る」

時々診ていたが、一年たたないうちに黄疸ができ、マーカーも上昇。即入院にしたが、一か月後に亡くなられた。

この方はがんが見つかってから一回も治療を受けていない。だけど定期的に検診はうけていた。三年間の世界旅行で充実感、喜び、楽しみを味わい、治癒力が高まったのではと考えられる。生き続けると、ストレスが高まる場合が多い。今回のケース、心の治癒力以外は何も関与していない。

八十代の男性の話。前立線がんで骨転移しており、末期ということで緩和ケアに来た。コロナ禍になり無くなったが、以前は「カラーセラピー」というのをやっていた。要は大人のぬり絵。色鉛筆かクレヨンで下書きしてある絵を仕上げる。

これに参加しているとがんがよくなった。セラピストは二人の女性、それも美人だが、「カラーセラピーでがんがよくなった」と喜んだ。「それはちょっと違うのでは」と私。この患者さんと女性は二時間くらい楽しそうに話をしながら絵を仕上げていく。

男性のセラピストが来たらどうだっただろう。美人の女性と会うのが楽しくて(二週間に一度)心の治癒力が向上したのでは。人というものは喜び、イキイキ、ワクワクするものは使えるのでは。何が患者にとってプラスになるかを考える。

安心感、くつろぎ、喜びを感じる物は心の治癒力に影響する。癒される音楽を聴いてもよい。好きなドラマを見てもいい。何でもいい、プラスになるものを選んでやってみよう。

無理をする必要はない。自然に任せるのがいい。むりして「前向きに、明るく」として心の治癒力を高めようとするとストレスがたまる。

黒丸先生の講演を聞くとホッとする。だけど、「心の治癒力と言ってエビデンスはあるの」と思う人もいるだろう。また、「三千人のうち二十人くらいの人のことを考えても」と思う人もいるだろう。だけど、こういう話を聞いて「ホッ」とする人がいるのも事実。私は黒丸先生の話が「五年生存率は十%程度」と主治医に言われても十七年以上生きてこられた結果の一因ではと思っている。要は自分がくつろげる何かを見つけることが大切。

以前は「心の治癒力への旅」という黒丸先生のエッセイをよく読んで楽しんでいた。終了してからはあまり接することがないのが残念と思っていただけに、このたびの講演に興味を持った。

より多くの人に講演内容を知ってもらいたいと思った。そこでこのエッセイを記そうと思ったが、どうも私の文章ではわかりにくい。やはり本人の講演、もしくは著書を読んでもらうほうがいいような気がする。そこで著書の紹介をしてみたい。

「心の治癒力をうまく引きだす」筑地書簡
「緩和医療と心の治癒力」築地書簡
「『心の治癒力』をスイッチオン!」
BABジャパン

私はこれらの書籍をすべて読んでいるのだが、実をいうと臨機応変が苦手で、職場で障害者に対して教科書的な対応をすることが多い。今回の講演を聞き、彼・彼女らの心の状態をよくするため、何ができるか、どのように接すればよいのか、もう一度考えてみたいと思った。