RFLマイ・オンコロジー・ドリーム奨励賞(2017年度)

2017年度RFLマイ・オンコロジー・ドリーム奨励賞
菊池弥寿子氏、隈部篤寛氏、服部正也氏に決定


左より、日本対がん協会後藤理事長、MDアンダーソンがんセンター上野直人氏、
菊池氏、隈部氏、服部氏、シカゴ大学ケネス・コエン氏

日本対がん協会は5月11日、東京・港区の東京アメリカンクラブで「リレー・フォー・ライフ(RFL)マイ・オンコロジー・ドリーム奨励賞」の2017年度授賞式を開催した(協力:米テキサス大学MDアンダーソンがんセンター、シカゴ大学、一般社団法人オンコロジー教育推進プロジェクト)。
同賞は日本対がん協会が各地の実行委員会と共に開催しているリレー・フォー・ライフ・ジャパンに寄せられた寄付金をもとに、地域のがん医療の充実を図るために2010年度に授けられた米国における1年間の留学研修プログラム。全米有数のがん専門病院であるテキサス大学MDアンダーソンがんセンター、シカゴ大学の協力と、一般社団法人オンコロジー教育推進プロジェクトの支援の基にこれまで15名の若手医師を米国に送り出してきた。
2017年度の受賞者は東京大学医学部附属病院乳腺内分泌外科の菊池弥寿子医師と、慶應義塾大学医学部放射線科学の隈部篤寛医師、愛知県立がんセンター中央病院乳腺科の服部正也医師の3人。菊池医師と隈部医師がMDアンダーソンがんセンターで、服部医師がシカゴ大学医学部でそれぞれ1年間研修する。
はじめに後藤尚雄日本対がん協会理事長が3人の受賞を発表し、続いてそれぞれの受賞者がMDアンダーソンがんセンター腫瘍内科の上野直人教授、シカゴ大学医学部血液腫瘍内科のケネス・コエン氏より奨励賞と目録を受け取り、喜びの言葉を述べた。

MOD奨励賞受賞の言葉「マイ・ドリーム」


乳がんの転移予測ツールを確立したい
東京大学医学部付属病院乳腺内分泌外科 菊池弥寿子

今回MOD奨励賞を受賞させていただいたことは、身に余る光栄でございます。同時に、この賞を受賞することは、リレー・フォー・ライフを支援されている皆様から、これからのがん研究、治療への期待を込めたタスキを引き継ぐことでもあり、身の引き締まる思いです。
乳腺内分泌外科医として日々の診療を行ううちに、様々な事情を抱えながら治療を続けられている患者さんに対し、様々な専門分野のスタッフと、密な連携をとる必要性を痛感するようになりました。さらに、近年は遺伝子発現パターンによる再発リスク評価や、マルチ遺伝子パネルによる発癌リスク予測、予防医療など、がん治療に対する幅広い知見のキャッチアップが求められております。
一方、原発がん組織からの転移の予見はいまだ課題であり、転移部位に応じた治療、効果判定、さらに侵襲の少ない検査で、より高密度の情報を得ることが期待されていることも感じていました。こうした経験の中で、次第に研究に携わりたいという思いが強くなりました。
今回研修させて頂くMDアンダーソンがんセンターは、多職種のスタッフが各々の専門領域で連携を取り合い、多くの研究成果をあげ、新たな治療方針を世界に発信している施設として知られています。
多職種による治療連携について体験し、低侵襲、高密度な転移予測ツールの確立を目指した研究を行い、帰国後に日本の橋渡し研究、がん治療に貢献したいと考えております。


陽子線治療の有効性を学び、優れた放射線治療を提供したい
慶應義塾大学医学部放射線科学 隈部篤寛

この度は、このような素晴らしい賞を受賞でき、大変有難く、また光栄なことだと思っております。またこの賞は、RFLの寄付金が原資となっていることを知って、同時に身が引き締まる思いです。
私は、放射線治療を専門として、日々がん患者さんの診療に携わっております。分野としては、胸部領域の悪性腫瘍を中心に担当しています。放射線治療は近年の治療技術の発達に伴い、より病巣に絞って精密かつ正確に治療することが可能となっています。しかし、周囲の正常組織への障害が問題となり、がんが完治したとしても治療後に患者さんのQOLを損なうことがしばしば見受けられます。従ってより患者さんに負担が少なく、副作用の少ない治療の開発が求められます。
この度、研修させて頂く予定の、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターは世界有数のがん治療施設であります。当施設では、従来のX線治療に比べて、正常組織への放射線量を低くでき、身体により負担の少ない陽子線治療が、実臨床や臨床研究で広く用いられています。ただし、その臨床的な有用性についてはまだまだ分からないことが多いのが現状です。
この貴重な機会をフルに生かして、米国では陽子線治療がどのように、そしてどの程度X線治療に比べて有効なのかを学んだ後に、より優れた放射線治療を提供して日本のがん医療に貢献できるように頑張っていきたいと思っております。


ゲノム情報を利用したがん治療の個別化を
愛知県がんセンター中央病院乳腺科 服部正也

この度は、このような素晴らしい賞に選考いただき、誠にありがとうございます。日本対がん協会をはじめ、リレー・フォー・ライフに関わる全ての皆様に深く感謝を申し上げます。
私は、乳腺腫瘍学を専門とする腫瘍外科医として研鑽を積んでまいりました。日々、乳癌の患者さんの治療に携らせて頂く中で、数多くの治療開発試験にも関わらせて頂き、その中で、がん治療におけるバイオマーカーの重要性と個々のゲノム情報を利用したがん治療の個別化に強い関心を抱くようになりました。
乳癌のみならずがんの治療では、なぜ個々で効果が異なるのか、なぜ個々で副作用が異なるのか、そして、なぜ治療が効かなくなるのか、という基本的な疑問があります。今回の研修では、これら疑問の解明に少しでもつながるようなゲノム情報を用いた橋渡し研究と実際のゲノム医療を学びたいと考えております。
私が今回研修させていただくシカゴはオバマ前大統領の地元で、その退任演説の中に“Show up. Dive in. Persevere.”という言葉がありました。今、まさに持つその気持ちを忘れず、楽しんでチャレンジしてまいります。
最後に、この機会を後押しくださった岩田広治先生、また多くのサポートを頂く愛知県がんセンターの皆様、そして妻と3人の子供達に感謝をし、私の受賞の言葉とさせていただきます。

RFLマイ・オンコロジー・ドリーム奨励賞 とは?

日本のがん医療に役立てることを目的に、米国屈指のがん専門病院として知られる米テキサス大学MDアンダーソンがんセンターと協議して設けた研修プログラムです。日本の若手医師を同センターに派遣し、約1年間学んでもらいます。リレー・フォー・ライフ・ジャパンに寄せられた寄付金をもとに運営し、そこに、日本のがん医療向上を願う多くの方々の気持ちが込められています。

この趣旨を同センターにご理解いただくとともに、一般社団法人オンコロジー教育推進プロジェクトの協力を得て、2010年度に第1回目の公募を始めました。それ以来の受賞者は次の通りです。

[敬称略、五十音順、所属は採択時のもの]

年 度 氏名・所属
2017年 菊池弥寿子(乳腺内分泌外科、東京大学医学部付属病院)
隈部篤寛(医学部放射線科学、慶應義塾大学)
服部正也(乳腺科、愛知県がんセンター中央病院)
2016年 喜多久美子(乳腺外科、聖路加国際病院)
西本光孝(医学研究科、大阪市立大学大学院)
宮内栄作(呼吸器内科、東北大学病院)
2015年 岩瀬俊明(臓器制御外科、千葉大学附属病院)
及川将弘(乳腺外科、にゅうわ会及川病院)
鳩貝健(消化管内科、国立がん研究センター東病院)
2014年 三浦裕司(臨床腫瘍科、虎の門病院)
森川直人
(呼吸器・アレルギー・膠原病内科、岩手医科大学)
2013年 河野美保(腫瘍内科、広島市民病院)
原野謙一(腫瘍内科、日本医大武蔵小杉病院)
2012年 塩崎隆也(産婦人科、三重大学、現在紀南病院)
並川健二郎(皮膚科、国立がん研究センター中央病院)
2011年 古川孝広(腫瘍内科、KKR札幌医療センター 斗南病院)
原尾美智子(乳腺外科、栃木県立がんセンター)
2010年 増田紘子医師(乳腺外科、大阪医療センター)