左より、MDアンダーソンがんセンター上野直人氏、シカゴ大学ケネス・コエン氏、
宮下氏、秋山氏、島津氏、日本対がん協会会長垣添忠生
日本対がん協会は5月17日、東京都中央区の朝日新聞社東京本社レセプションルームで「リレー・フォー・ライフ(RFL)マイ・オンコロジー・ドリーム(MOD)奨励賞」の2018年度授賞式を開催した(協力:米テキサス大学MDアンダーソンがんセンター、シカゴ大学、一般社団法人オンコロジー教育推進プロジェクト)。
同賞は日本対がん協会が各地の実行委員会と共に開催しているリレー・フォー・ライフ・ジャパンに寄せられた寄付金をもとに、地域のがん医療の充実を図るために2010年度に設けられた米国における1年間の留学研修プログラム。全米有数のがん専門病院であるテキサス大学MDアンダーソンがんセンターとシカゴ大学の協力と、一般社団法人オンコロジー教育推進プロジェクトの支援の元にこれまで16人の若手医師を米国に送りだしてきた。
今年度の受賞者は東京医科歯科大学医学部付属病院血液内科医員の秋山弘樹医師(35)と、日本赤十字社和歌山医療センター血液内科副部長の島津裕医師(41)、東北大学病院乳腺・内分泌外科講師の宮下穣医師(41)の3人。秋山医師と島津医師がMDアンダーソンがんセンターで、宮下医師がシカゴ大学医学部でそれぞれ1年間研修する。
はじめに後藤尚雄日本対がん協会理事長が3人の受賞を発表。日本対がん協会とリレー・フォー・ライフ・ジャパン実行委員から奨学金認定書が3人に授与され、受賞者がそれぞれ喜びの言葉を述べた。
授賞式参加者と記念写真
MOD奨励賞受賞の言葉「マイ・ドリーム」
白血病の予後を大きく改善したい
東京医科歯科大学附属病院血液内科 秋山弘樹
この度はRFLマイオンコロジードリーム奨励賞に選考いただきまして、大変光栄に存じます。また、RFLに関わる皆様や対がん協会をはじめ関係者の方々には深く感謝申し上げます。
私は血液内科医として日々、白血病やリンパ腫といった血液がんの患者様の治療にあたってまいりました。近年の分子標的治療薬の進歩により血液がんの予後は大きく改善していますが、成人に多い白血病である急性骨髄性白血病についてはなかなか決定的な治療薬が開発されず、厳しい経過となることも多いのが現状です。
私は、そういった患者様の診療に携わる中でどうにか急性骨髄性白血病にも他の血液がんのような治療のブレイクスルーが得られないか、という思いで原因遺伝子を標的とした治療法の研究を行うようになりました。
今回研修させていただくMDアンダーソンがんセンターは、世界中からトップクラスの人材が集まり最先端の設備で研究が行われているだけでなく、白血病を含む非常に多くの患者様が新薬の治験を含む治療を受けている施設です。そういった環境で、白血病の予後を大きく改善させるような治療の開発を目指すと同時に、帰国後にその経験を日本での血液がん研究や治療の発展に生かせるよう、できる限りのことを学んでくる所存です。
今回の研修がRLFの皆様の思いに支えられたものであることを忘れず、その期待に応えられるよう今後とも努力を続けていきたいと思います。
血液がんの新しい治療法を開発したい
日本赤十字社和歌山医療センター血液内科 島津裕
この度はこのような素晴らしい賞を受賞させて頂き、そしてMDアンダーソンへの留学の機会を与えて頂き、誠にありがとうございます。RFLを支えて下さっている皆様からの温かい支援と期待を背負ったMOD奨励賞の重みに、身の引き締まる思いでおります。皆様の期待に応えられるよう、一生懸命研修して参ります。
私は、血液がんを専門とする血液内科専門医として日々の診療に携わっている中で、血液がんの治療成績が大きく改善してきたことを実感しています。一つにはがんに特異的な分子標的治療薬、他には免疫療法の登場により、予後はさらに改善しています。
しかしその中でも、私が研究テーマとしているT細胞リンパ腫は希少疾患で標準治療がなく、複数の新規薬剤が登場したものの、未だよい治療はなく、予後はよくありません。T細胞リンパ腫の研究を進めるためには、腫瘍側のゲノムとエピゲノムの研究、それに宿主免疫の研究が必要と考えています。
今回MDアンダーソンで研修させて頂く高橋先生は急性白血病に対する最先端のゲノム・エピゲノム研究を進めておられます。私はこれまで免疫の基礎研究も行ってきましたので、その知識を生かして1年間の研修で最先端の研究手法と考え方を習得し、よき研究仲間と切磋琢磨することで日米間に人脈のネットワークを築き、帰国後の研究に生かしたいと考えております。
乳がんの副作用低減などの治療法開発へ
東北大学病院乳腺・内分泌外科 宮下穣
今回このような素晴らしい賞を受賞させていただき、大変有難く思っております。この賞が日本対がん協会、RFLに関わる皆様の思いと寄付金から成り立っているものであり、この場を借りて感謝申し上げます。
私は乳がんを専門とする外科医として、乳がん患者さんの診断、手術治療、薬物治療、そして緩和医療まで全てのステージに携わらせて頂いています。また、バイオマーカー探索研究や臨床試験にも携わらせて頂いています。
その中で、より効果的な集学的治療や、副作用や治療抵抗性を予測しながら戦略を立てる必要性を感じています。患者さんがストレス無く治療を受けられ、がんに罹患しても前向きに幸せな人生を歩めること、それを実現していくことが我々の責務と考えています。
私はこれまで乳がんにおける腫瘍免疫の研究を行ってきました。そのなかで免疫治療をより効果的に行うためには他の治療モダリティによる腫瘍免疫微小環境の修飾が重要だと考えております。それを解明していくことが最終的には副作用を軽減したり治療抵抗性を回避したりするような治療の開発に結び付くものと考えており、そのような研究をシカゴ大で行っていければと思います。
このような貴重な機会を頂いたのは幸運であり、ぜひこのチャンスを最大限に生かして、将来的には日本のがん治療に貢献できるように頑張っていきたいと考えております。