RFLマイ・オンコロジー・ドリーム奨励賞(2024年度)

2024年度RFLマイ・オンコロジー・ドリーム奨励賞
落合健太郎氏、加藤智敬氏に決定

日本対がん協会は6月27日、「リレー・フォー・ライフ(RFL)マイ・オンコロジー・ドリーム(MOD)奨励賞」の2024年度の受賞者を発表した(協力:米テキサス大学MDアンダーソンがんセンター、シカゴ大学、ハワイ大学がんセンター)。

同賞は日本対がん協会が各地の実行委員会と共に開催しているリレー・フォー・ライフ・ジャパンに寄せられた寄付金をもとに、地域のがん医療の充実を図るために2010年度に設けられた米国における1年間の留学研修プログラム。全米有数のがん専門病院であるテキサス大学MDアンダーソンがんセンターとシカゴ大学、一般社団法人オンコロジー教育推進プロジェクトの支援の元にこれまで23人の若手医師を米国に送りだしてきた。

今年度からは派遣先にハワイ大学がんセンターが加わり、3施設での研修が可能となった。

今年度の受賞者は東京大学医学部附属病院大腸肛門外科の落合健太郎医師と、一般財団法人太田綜合病院附属太田西ノ内病院外科の加藤智敬医師の2人。落合医師はMDアンダーソンがんセンターで、加藤医師はハワイ大学でそれぞれ1年間研修する。

ハワイ大学での研修は今年度が初となる。

 

東京大学医学部附属病院大腸肛門外科 落合健太郎氏

このたびは、RELAY FOR LIFE My Oncology Dream奨励賞にお選びいただき、深く感謝申し上げます。

私は消化器外科医として、東京大学医学部附属病院大腸肛門外科で診療に従事する傍ら、大腸癌に対する外科治療を中心とした研究に携わってまいりました。大腸癌の外科治療は日進月歩であり、近年では手術のみならず、術前放射線療法や化学療法と手術を組み合わせた集学的治療による治療成績の向上が報告されています。しかし、たとえ手術でがんが治癒しても、特に肛門に近い直腸癌の場合は、術後の骨盤機能の低下や人工肛門の造設により生活の質が著しく低下することも少なくありません。このため、術前治療後にただちに手術を行わず、慎重に経過を観察する「Watch-and-Waitアプローチ」という戦略も、集学的治療と同様に注目されています。

大腸癌の集学的治療やWatch-and-Waitアプローチは、国内ではまだ限られた施設のみで行われているのが現状ですが、欧米からの良好な治療成績の報告を受け、日本でも今後導入・普及が進むものと考えられます。米国ではこれらが早くから標準治療として実施されており、私の留学先である米国最大のがんセンター・MDアンダーソンがんセンターには、膨大な治療データが蓄積されています。この豊富な臨床データをもとに研究を行い、日本の大腸癌診療にも還元したいと考えております。

さらに、今後の大腸癌診療では、生命予後の改善だけでなく、術後の機能温存や人工肛門の回避など、患者さんの生活の質を考慮した治療がますます重要になると考えています。今回いただいた留学の機会を通じ、直腸癌に対する治療の選択肢を多様化し、患者さんの希望に応える患者中心の医療を実現する一助となりたいと願っております。

最後になりますが、本奨励賞の支援者の皆様に改めて御礼申し上げます。

 
 

一般財団法人太田綜合病院附属太田西ノ内病院外科 加藤智敬氏

このたびは「RELAY FOR LIFE My Oncology Dream奨励賞」に選出いただき,支援者の皆さまに深く感謝申し上げます。私は東京科学大学関連施設である太田西ノ内病院で肝胆膵外科医として診療に従事しております。

肝胆膵領域は悪性度の高い腫瘍が多く,現行のスクリーニングでは半数以上が進行期に発見される疾患もあります。術後早期再発例も少なくなく,膵切除や大肝切除を乗り越えたにもかかわらず術後早期に再発し,体力低下や栄養不良で化学療法に進めず苦しんでいる患者さんの姿は私の胸に深く刻まれています。従来の画像診断やバイオマーカーでは早期診断・術前リスク評価が不十分なため,検査精度の向上が急務です。私は早期発見,適切な治療方針を立てるための高精度な予後層別化,安全な周術期管理の実現を自身の課題として臨床研究を推進めてまいりました。

これまで,切除可能膵癌・遠位胆管癌・膵神経内分泌腫瘍などの術前CTによる予後層別化モデルや,膵頭十二指腸切除後の合併症リスク評価法を提案し,臨床での治療方針決定に貢献いたしました。次なるステップとして,研究をさらに大規模に,高精度で行っていくために,Artificial Intelligence(AI)研究の可能性に注目しています。AIによる微細パターン抽出は従来の診断法を大きく超える可能性を秘めています。ハワイ大学がんセンターJohn Shepherd教授のもとで最新の深層学習技術を学び,健診超音波・CT・MRI画像から早期発見・予後予測支援ツールの開発を目指します。帰国後は多施設のフェデレーテッドラーニングにより大規模検証を行い,個別化治療を推進し,生存率とQOLの向上に寄与する革新的診断・治療戦略の確立を目指します。

本奨学金のご支援を糧に,膵癌・肝胆膵悪性腫瘍の早期発見と個別化医療を推進し,多くの患者さんの生存率向上とQOL改善に貢献できるよう全力を尽くしてまいりますので,引き続きご支援の程何卒宜しくお願い致します。

 

RFLマイ・オンコロジー・ドリーム奨励賞 とは?

日本のがん医療に役立てることを目的に、米国屈指のがん専門病院として知られる米テキサス大学MDアンダーソンがんセンターと協議して設けた研修プログラムです。日本の若手医師を同センターに派遣し、約1年間学んでもらいます。リレー・フォー・ライフ・ジャパンに寄せられた寄付金をもとに運営し、そこに、日本のがん医療向上を願う多くの方々の気持ちが込められています。
この趣旨を同センターにご理解いただくとともに、一般社団法人オンコロジー教育推進プロジェクトの協力を得て、2010年度に第1回目の公募を始めました。それ以来の受賞者は次の通りです。

[敬称略、五十音順、所属は採択時のもの]

年 度 氏名・所属
2024年 落合健太郎氏(東京大学医学部附属病院大腸肛門外科)
加藤智敬氏(一般財団法人太田綜合病院附属太田西ノ内病院外科)
2023年 西井和也氏(独立行政法人国立病院機構岩国医療センター呼吸器内科)
松井悠氏(国立大学法人富山大学附属病院皮膚科)
2022年 柴田祐司(国立がん研究センター東病院呼吸器内科)
宮川哲平(福島県立医科大学低侵襲腫瘍制御学講座)
2019年 宇田川響(国立がん研究センター東病院呼吸器内科)
瀬戸克年(東京医科歯科大学大学院呼吸器外科学)
2018年 秋山弘樹(東京医科歯科大学附属病院血液内科)
島津裕(日本赤十字社和歌山医療センター血液内科)
宮下穣(東北大学病院乳腺・内分泌外科)
2017年 菊池弥寿子(乳腺内分泌外科、東京大学医学部付属病院)
隈部篤寛(医学部放射線科学、慶應義塾大学)
服部正也(乳腺科、愛知県がんセンター中央病院)
2016年 喜多久美子(乳腺外科、聖路加国際病院)
西本光孝(医学研究科、大阪市立大学大学院)
宮内栄作(呼吸器内科、東北大学病院)
2015年 岩瀬俊明(臓器制御外科、千葉大学附属病院)
及川将弘(乳腺外科、にゅうわ会及川病院)
鳩貝健(消化管内科、国立がん研究センター東病院)
2014年 三浦裕司(臨床腫瘍科、虎の門病院)
森川直人
(呼吸器・アレルギー・膠原病内科、岩手医科大学)
2013年 河野美保(腫瘍内科、広島市民病院)
原野謙一(腫瘍内科、日本医大武蔵小杉病院)
2012年 塩崎隆也(産婦人科、三重大学、現在紀南病院)
並川健二郎(皮膚科、国立がん研究センター中央病院)
2011年 古川孝広(腫瘍内科、KKR札幌医療センター 斗南病院)
原尾美智子(乳腺外科、栃木県立がんセンター)
2010年 増田紘子医師(乳腺外科、大阪医療センター)